『東大入試で遊ぶ教養 日本史編』はじめに

意外に思われるだろうが、東大入試では受験知識はいらない。考える問題になっているから、教養程度の知識があれば十分だ。だから、『東大入試で遊ぶ教養』シリーズは、受験知識を身につけるための本ではなく、①教養力を身につけたい大人や、②論述力を身につけたい受験生のための本になっている。
まず知っておいてほしいのは、学問が目指しているのは、これまで正しいと思われていた常識を疑うことだ。たしかに高校までの勉強では、教科書は正しいものだった。しかし大学では、教科書で学びながら教科書を批判する。常識を身につけながら、常識のおかしなところを指摘するのだ。
しかも、常識を疑うには真実の力が必要だ。入試問題であれば資料のことだ。資料には自分の想像を超えた内容が記されている。それを理解できれば常識を疑える。これが真実の力だ。資料にもとづいていれば、ひとを納得させることもできる
だから日本史の問題を見てもらうとすぐにわかるが、資料が提示されている。それも現代語訳してある資料だ。これは、日本史の試験であり、古文の試験ではないからだ。受験生のみんなが日本史(国史学)を専攻するわけではない。また日本史を専攻する学生なら、専攻にすすんでから十分に鍛えられる。受験段階では、現代語訳の資料で十分だ。ずいぶんと割り切っている。これが、東大だ。
それだけではない。大学は模範解答を超える解答をもとめている。大学が用意した模範解答よりも優れた解答があれば、それをもとに最初から採点しなおすほどだ。それまでして優秀な学生をほしがる。また、それほど手間をかけて採点しているから、足切りもせざるを得ない。基礎知識で足切りを実施するのは、そもそも常識の限界を知らなければ、何を疑えばいいのか、わからないからだ。
また東大二次試験の社会科目には、日本史・世界史・地理の地歴科目はあっても、政治経済・倫理社会・現代社会など公民科目はない。それは近現代史の問題を出せば、政治・経済・思想の知識を問うことができるからだ。歴史の勉強は、深めれば深めるほど広がる。少し深めた問題を出せば、公民の知識を確認できる。やはり、東大は割り切っている。
この本は、ちょっと深く考える東大力をつける本だ。問題は、実際に出題された東大入試問題だが、教養力と資料で問題は解けるはずだ。解答例はあくまで解答例だから、これよりもいい解答をめざしてほしい。できたら東大力がついたということだ。また解答例のあとに歴史の勉強のコーナーを作った。そこで、教科書よりも少し深く、歴史を学ぶことができる。そこで、常識を疑う楽しさを感じてほしい。

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