『東大入試で遊ぶ教養 世界史編』はじめに

歴史学は、実は暗記の学問ではなく思考の学問だ。だから、教科書程度の知識があれば、あとは思考力と論理力で解けるという問題が、いい問題だ。それが、まさに東大入試だ。
しかし同じ歴史科目でも、日本史と世界史では勉強の仕方がちがう。日本史では歴史を深めることが求められるが、世界史では出来事をタテ・ヨコにつなげていくことが求められる。視点を変えるだけでも、大きく歴史観が変わるからだ。
東大世界史の論述問題では、いくつかのキーワードが用意されている。キーワードは教科書で学ぶ範囲のもので、お馴染みのものばかりだ。しかも、それらのキーワードを時代順に並べるだけで、教科書には書かれていない歴史像が見えてくる。キーワードは、このように受験生を導くものであって、けっして受験生を困らせるものではない。
しかもキーワードのほとんどは、過去の東大入試でよく使われているものだ。過去五年間の問題を見れば、そのことがよくわかるはずだ。それでも毎年ちがう問題をつくることができるのは、ひとつの出来事がさまざまな筋書きの交差点になっているからだ。同一の出来事でも、異なる視点から見れば、異なる姿をみせる。そこが歴史学の面白いところであり、東大入試の面白いところでもある。
その一方で、世界史には一問一答形式の問題もある。しかし、必ずひとつのテーマで貫かれていて、テーマに即して思い出していく連想力を問う問題になっている。やはり、出来事をつなげる力が問われているのだ。
これら一問一答で問われている知識は、高校の教科書範囲のものがほとんどだが、ときには地理や政経など世界史以外の科目の教科書範囲まで出題される。それは、現実の出来事が教科ごとに分類されて存在しているのではなく、教科の壁を越えて相互に関連しながら存在しているからだ。だから、東大二次試験の社会科目には、政治経済・倫理社会など公民科目はない。地歴科目で政治・経済・思想の知識を問うことができるのだ。ほんとうに、東大は割り切っている。
それだけではない。東大は模範解答を超える解答をもとめている。大学が用意した模範解答よりも優れた解答があれば、また最初から採点しなおすほどだ。それまでして優秀な学生をほしがる。そこで読者には、この本の解答例よりもいい解答をめざしてほしい。
さらに、この本では〈歴史の勉強〉のコーナーをつくった。そこで、教科書で習ったのとは異なる見方をすることで、これまでとは異なる歴史像を発見して、歴史で常識を疑う楽しさを感じてほしい。

二〇〇六年一〇月                      佐々木 哲

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