2013年東大後期・総合科目Ⅲ・第1問【解答速報】

【問1】
世界地図はルネサンス・大航海時代を画期として、世界の意味を記述した古代・中世的なものと、世界を対象化して測定可能とした近代的なものに分かれる。
古代・中世的な世界地図は、生活や社会・文化を支える世界観を表現したものであり、世界観を絵画化した概念図であった。空間は一様ではなく場所ごとに異なる意味をもち、空間と空間の間には厳然と境界があった。境界は結界とも呼ばれ、簡単に乗り越えられるものではなかった。その好例が聖域である。人は場所ごとに意味に即して行動した。
しかし大航海時代以降の近代の世界地図では、空間は絶対空間として事象から切り離されて、座標をもつ容器になった。座標軸の目盛は等間隔で、連続的で無限であり、そこには価値による方向性も軽重もない。このようにすべての意味や関係を排除して抽象化する試みは、科学が理想状態を設定して法則性を導くのと同じ手法であり、世界地図は価値観から解放されて普遍性をもち、誰が見ても役立つ方法・手段となったといえる。
もはや世界は人間の行動を規定するものではなく、観測者によって対象化され測定されるものになったといえよう。

【問2】
一九七〇年代に先進国の高度経済成長は終るが、新興国の経済発展で南北格差が縮小している。さらに交通の高速化やインターネットの普及で、世界は縮小し均質化が進んだ。アフリカでも太陽光発電があれば、携帯電話が使える。こうして世界の均質化が進んだ。
ところが高速化による移動費用は高く、世界の均質が進むほど、空間の非均質化も同時に進んでいる。たしかに都市は世界中どこも似ており、生活水準もほとんど変らない。しかし地方は取り残されており、開発によって方言(あるいは少数民族の言語)とその世界観が失われつつあるものの、まだまだ生活に密着した固有の文化を残している。
インターネットで瞬時につながる相手も、実は同じ関心を持つ者であり、都市において価値観の多層化が進んでいる。やはり均質な空間に不均質性が生まれている。
また経済でも国際化が進む一方で、フードマイレージや地消地産に見られるように、生活に密着した規模の経済が見直されている。
このように、均質性と不均質性、あるいは普遍性と特殊性は、概念としては対立しているものの、実際には対立しながらも相互に補い合う関係にあるといえよう。

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